エレベーター点検について
多くのマンションに設置されている「エレベーター」
快適に生活する上でなくてはならない設備ですが
精密な機器が沢山組み込まれているため
安心・安全に利用するために点検は欠かせません。
エレベーターは建築基準法12条3項の規定により
年に1回の法定点検が義務付けられています。
管理者(主に理事長)は基準に則って「定期検査」をおこない
検査結果を特定行政庁に報告する必要があります。
過去にエレベーターの誤作動によるいたましい事故も起きていますので
誰でも安心・安全に利用するために
管理者は必ず法定点検を実施しなければなりません。
但し、実際には年に1回義務付けられている法定点検だけではなく
1か月や3ヶ月に1回の頻度で点検業者に点検を依頼している管理組合がほとんどであり
それだけ安全面が重要視されています。
エレベーター点検には
「POG契約」と「フルメンテナンス契約」の2種類の契約があります。
「POG 契約」とは、「パーツ・オイル・グリス」の略で
定期的な機器・装置の点検を行うことに加え
電球・ヒューズ・リード線などの消耗品の交換や、オイル・グリス等の補充のみを行い
劣化した部品の取替えや修理等の費用を含まない契約のことをいい
比較的安価です。
「フルメンテナンス契約」とは、上記「POG契約」の内容に加え
点検結果に基づき、劣化した部品の取替えや修理等も行う契約のことをいい
費用は比較的高額です。
「フルメンテナンス契約」は未来の部品交換費用を
毎月少しずつ支払っている感覚に近いです。
そのため、設置から期間が経過したエレベーターでは交換部品が増えてしまい
点検業者の利益が見込めないため、契約を断られることが多いです。
「POG契約」でも点検時に交換が必要と判断された部品に関しては
点検業者から後日交換の提案と見積が提出されますので、その点はご安心ください。
どちらの契約が良いということはありませんが
通常、点検費用は管理費会計、部品交換費用は修繕積立金会計で賄われていると思いますので
管理組合の懐事情をみて、契約を検討していきましょう。
大規模修繕工事とは
マンションを適切に維持管理していく上で重要な「大規模修繕工事」
理事会役員や修繕検討委員にならないと
どのような工事をおこなっているかなかなか分かりづらいと思います。
※修繕検討委員とは、大規模修繕に関する計画や決定事項などを
専門に行う委員会のメンバーのことです。
国土交通省のガイドラインでは、大規模修繕工事は
「マンションの快適な居住環境を確保し、資産価値を維持するために行う修繕工事や
必要に応じて建物及び設備の性能向上を図るために行う改修工事のうち
工事内容が大規模、工事費が高額、工事期間が長期間にわたるもの等をいう。」
と書かれており、大体12年~15年に一度行うのが望ましいとされています。
具体的には、屋上やバルコニーの防水工事
外壁の下地補修・タイルの貼り替え・塗装、鉄部の塗装
シーリングの打ち替え等行い
場合によっては給水管や排水管の更新を行う場合もあります。
但し、工事内容はあくまでも管理組合が決めることであるため
必ずしもこの内容で行うとは限りません。
例えば屋上防水工事は足場を必要としないため
防水の状態が良好であれば、実施時期を延期することもあります。
大規模修繕工事を行うにあたり
理事会役員や修繕検討委員は次のようなことを行っています。
①建物の劣化状況を調べる
②劣化状況を基に、工事の内容を決める
③決めた工事内容で、(複数の)業者から見積りをとる
④見積りを基にどの業者に依頼するか決める
⑤工事内容、業者を決めたら総会に上程する
※上程とは、議案などを会議にかけることです
⑥総会にて可決承認後、業者と契約し、具体的な工事の日取りを決める
⑦工事中、追加で必要な工事が発生した場合、都度検討する
⑧工事が概ね終了したら、検査を行う
⑨検査終了後、業者から提出される工事完了報告書を確認し、工事終了
工事費用は戸あたり100万円が目安とされていましたが
築年数によりやらなければいけない工事が大きく変わってくるので
一概にはいえません。
また、最近は物価高騰のあおりを受け、工事金額が跳ね上がっているため
予想より見積が高額になることが多いです。
資金不足により工事が延期とならないように
管理組合は普段から修繕積立金を計画的に貯めていくことが重要です。
支払督促の注意点
マンションを健全に維持管理していくためには
管理費や修繕積立金(以下「管理費等」)の資金はとても重要ですが
管理で頭を悩ます問題に管理費等の滞納があげられます。
管理費等はそれぞれのマンションで毎月決められた日に
決められた金額を入金いただくのが原則ですが
残念ながら入金が滞る方は一定数おられます。
滞納者のなかには数か月、数年単位で滞納する方もいるので
管理組合はマンション維持管理の資金を確保するために
滞納した管理費等を回収しなければなりません。
回収の方法としては督促状の送付や電話での督促等さまざまですが
なかには注意が必要な方法もあります。
以前、別の管理会社から弊社に管理を変更して頂いた管理組合の理事長から聞いた話ですが
以前の管理会社に滞納者への回収方法として「支払督促」を勧められたため
それに応じたところ、滞納者から支払えないとの異議申し立てがあり
そのまま自動的に通常訴訟へ発展、裁判所に行かなくてはならなくなり困った、
「支払督促」とは、債権者からの申立てに基づいて
簡易裁判所の書記官が債務者に金銭の支払いを命じる制度です。
あまり費用をかけずに裁判所からの支払い命令を得ることができ
強制執行もできるようになりますが、
債務者から異議申し立てがあると、そのまま通常訴訟へ発展してしまうデメリットがあります。
そうなると弁護士を探す時間もあまりありませんので
代表者である理事長が裁判所へ行かなくてはならなくなります。
そうならないように、支払督促を行う場合は事前に弁護士に相談する等
異議申し立てに備えることが重要です。
ちなみに、滞納があるお部屋が売却された場合でも滞納は消滅せず
次の所有者(特定承継人)に引き継がれますが
管理費等は5年で時効を迎えてしまいますので
時効を迎える前に法的措置をおこない、時効を更新するよう心がけましょう。
玄関扉の交換で快適な住まいを
マンションの玄関扉や窓といった開口部は外側が共用部分に当たることから
築年数の経ったマンションで全戸一斉に玄関扉や窓の交換を行うことがあります。
(国土交通省が作成している「標準管理規約」では開口部の交換を含めたリフォームを
個人で実施することを認める条文があることからマンションによっては個人で交換可能な
場合もあります)
玄関扉は劣化が進行すると、扉自体や枠に錆が発生したり扉に歪みが生じてきて
正常な開閉が出来なくなってしまったり、見栄えが悪くなってしまったりしてきます。
また、築古のマンションですと、鍵も旧型のデザインだったり
鍵穴が1つだけだったりして、防犯性も心もとないです。
その為、玄関扉の交換が必要となってきます。
国土交通省作成の長期修繕計画作成ガイドラインでは
玄関扉の交換目安を築34年~38年に設定していますが
玄関扉の設置されている位置や環境により劣化の進行はまちまちですので
ガイドラインはあくまでも目安としてとらえ
ご自身のマンションの劣化具合を実際みて交換をご検討いただくのが宜しいかと思います。
弊社で管理しているマンションでも、先日玄関扉の一斉交換を行ったところがありました。
築25年程のマンションですが、枠や扉の錆が目立ってきて
修繕を要望する声が多くなってきたことから
理事会で検討し、玄関扉の全戸一斉交換が総会で可決承認されました。
工事にも立ち合いましたが、玄関扉の交換を行うとマンションの見栄えがかなり良くなります。
また、それだけではなく、断熱性・防犯性・遮音性の向上や、
レバーハンドルからプッシュプルハンドルへ変更したことにより利便性も向上しました。
現在、玄関扉の交換はカバー工法(既存の枠を新しい枠で覆って扉を交換する工法)が
主流となっており、
今回交換したマンションもカバー工法で交換しました。
工期の短縮や費用面でメリットが大きいためですがデメリットとしては
枠を覆った分だけ開口部が僅かに小さくなることがあげられます。
玄関扉の交換の最大のハードルは費用面だと思います。
マンションの規模により大きく変わってきますが
戸あたり30万円程度が相場のようです。
全戸一斉交換できる費用の確保が難しいようでしたら
上記に記載したように、管理規約の改定により
開口部の交換を含めたリフォームを管理組合で認めることも必要になってくると思います。
マンションの実情に応じて管理組合で検討してみてはいかがでしょうか。
組合員の相続人がいない場合、滞納となる管理費等はどうする?
組合員(区分所有者)が亡くなったとき、通常はご家族の方が該当する部屋を相続し、
管理費や修繕積立金等の支払いを引き継ぎます。
しかし、稀にあるのが、相続人がいないというケースです。
法定相続人がそもそも存在しない場合はもとより、
存在する法定相続人がすべて相続放棄をしてしまうという場合も当てはまります。
問題なのは相続人がいないと、管理費等の納付が止まってしまうことです。
実際の事例ですが、亡くなった組合員は離婚し配偶者がおらず、
同居していた息子さんも相続を放棄されました。
管理組合では管理費等の請求先を探すため、弁護士に依頼し、
他のお子様方とも交渉して頂きましたが、
全員相続を放棄されました。ご両親は他界されているため、さらに弁護士を通じて、
ご本人の兄弟姉妹の方々もすべて探し当て、交渉していただきましたが、
やはり放棄されてしまいました。
このような場合、管理組合が取り得る手段は、相続財産清算人の選任の申し立てです。
管理組合にて家庭裁判所に選任の申し立てを行います。
これによって選任される相続財産清算人が、遺産の管理・処分を行いますので、
その際に管理組合が届け出た未納の管理費等が回収できます。
手続きの大まかな流れは以下の通りです。
1)相続財産清算人の選任と相続人捜索の公告
家庭裁判所は、相続財産清算人の選任をしたこと、及び、
当該被相続人の相続人がいる場合には申し出るよう公告をします。
相続人捜索の公告は、6か月以上の期間を定めなければならず、
この期間内に相続人が申し出た場合には、
遺産はその相続人に承継されることになるので、
相続財産清算の手続は終了することになります。
2)債権申出の公告
家庭裁判所は、上記公告に加え、当該被相続人に対する債権者や受遺者がいる場合には
届け出るよう公告します。
ここで管理組合も債権者として未納となっている管理費等の額を届け出ます。
この届出については2か月以上の期間が定められます。
期間満了後、届け出られた債権者と受遺者に対して、遺産から弁済がなされます。
この弁済により遺産がすべてなくなった場合は、相続財産清算手続は終了します。
3)相続人不存在の確定
相続人捜索の公告期間が満了し、その間に相続人が申し出なかった場合、
相続人不存在が確定します。確定までの期間は最短で6カ月です。
このような申し立てを行うに関しては、当然費用がかかります。
手続きを委託する弁護士への報酬や実費、裁判所には予納金を事前に支払わねばなりません。
従ってこの申し立てを行うにあたっては、要する費用や期間にも鑑みて、
管理規約で滞納管理費等の回収にかかる法的措置が、
理事会の決議で可能とされている場合でも、
念のため、予算の確保も含めて総会での決議を得ておくことが望ましいと思われます。
ちなみに、相続人がいないと、たとえ該当物件に金融機関の抵当権が設定されていても、
金融機関は競売の申し立てができません。
競売申し立てが可能であれば、区分所有法の定めに基づき、
管理組合は競落人に管理費等の未収分を請求し回収できますが、
この方法は使えないことになります。
金融機関としても管理組合と同様に、相続財産清算人選任の申し立てを行わなければ、
抵当権を実行しての債権回収は不可能なのです。
以上の事例にみるように、相続人不在に関わるトラブルは管理組合にとって、
極めて厄介な事案だと言えます。
弁護士や管理会社とも十分に連携を図りつつ、滞納管理費等の回収に至るまで、
粘り強い取り組みが必要でしょう。